リフォームの話 3
*宇都宮市F邸
― 耐震診断と耐震改修 ―
リフォームの相談を受けた場合ほとんどのケースで地震で壊れはしないかなど耐震診断や耐震改修の話が出てきます。これには先の現地調査の結果を基に診断、判定、改修設計となる訳ですが、築年数の経った古い建物の場合、診断結果が1.0未満の倒壊の可能性が高いという結果になることも多いです。(診断では1.0以上~1.5未満の範囲であれば一応倒壊しないという判断になり、1.5以上であれば倒壊しないという判断になります)
幾度かの震災の経験を踏まえて耐震基準がだんだんに引き上げられたことを考えれば古い建物がこの基準に満たないことは致し方ない結果とは言えますが「倒壊の恐れあり」の判断をそのままと言う訳にも行きません。当然何らかの耐震改修を考える事となります。現状を踏まえ耐震以外の改修の範囲を踏まえた上で必要以上に大げさにならない範囲で改修を考えることは予算との兼ね合いの中、なかなか妥協点を見つけるのは難しい作業となります。
現行の耐震基準は木造住宅などの場合、筋違いや合板の耐力壁+補強金物による剛な構造(変形を抑えた固い構造)となっています。基準が引き上げられた結果、築年数が古いものでは耐力壁の量が不足している場合が多くを占める事となっていますが、現行基準では壁倍率という壁の強度に見合った補強金物とセットで使う事が必要となる為、実際に補強する為には外部あるいは内部の仕上げを取り去って骨組までの状態にしないと簡単には出来ないのが実情です。その為の費用負担が大変なので皆さんここで躊躇されます。
この事例では当初より耐震補強が必要と言う事がわかっており建て主さんもそのつもりでおりましたので予算的な問題も解決済みで屋根以外はほとんど骨組にして耐震改修を行いました。基本的な耐震改修の考え方として耐力の強い壁を少なく設置する(開口部を広くとったり平面計画上自由度はこの方が上がります)よりも多少単位長さ当たりの耐力は小さめでも分散して数多く配置する方法を取りました。調査では分からなかった未知の要素が潜んでいる可能性もあるので極力、応力の集中を避け現行基準法を当てはめてもホールダウン金物までは必要としない程度の壁倍率の耐力壁を分散して配置しています。(以前より壁が増えても間取りなどの計画上の要求も特に問題とはならなかった事もありました)
別稿の限界耐力設計の話で少し述べてありますが現行基準の剛な構造を前提とした構造解析ではなく貫や土塗壁の伝統構法の民家などのように柔らかい構造を評価できる限界耐力設計の解析方法(*1)を当てはめれば必ずしもホールダウン金物など後付けの難しい金物を設置しなくてもその構造的な安全性の確認は取れると考えています。この場合は建物が倒壊に至らないように安全性を考えた柱の傾きの限界値を稀にある地震で1/120、ごく稀にある地震で1/30を超えないようにすると言うような設計上の安全値を決めておいて判断をするものです。(数値は木造のような柔らかい建物の参考値)
(1*) 少し専門的な話になるがこれは限界耐力設計法の中でも変位増分法といわれる解析方法で「伝統構法を生かす木造耐震設計マニュアル」で詳しく解説している。伝統構法である土壁等も対象に含んでいるので解析の前提として仕様規定に基づくホールダウン金物等の使用が必須の条件ではない。(実験で求めている復元力特性の値の算定条件の中にはV型の補強金物を使用しているものもある)一方、荷重増分法という解析方法もある。解説書としては「木造軸組工法住宅の限界耐力計算による設計の手引き」が有り、こちらは建築基準法の仕様規定による補強金物の使用を前提としている。