山下建築研究所/栃木・埼玉・茨城・群馬・関東エリアを中心に活動しています/栃木県の建築設計事務所

TOP | COLUMN | 限界耐力設計の話2

COLUMN

住まいに関する話や思いなど
住まいに関する話や思いなど
これまでに小冊子などに書いてきたものをまとめました。

限界耐力設計の話 2

勉強会

*勉強会/野木町公民館研修室にて
 
 
  前に記した関東能開大小山校での講座ではこの限界耐力設計法を適用できれば木造においても建築基準法の仕様規定により金物でがんじがらめの剛構造の状態から解放される可能性が出てくるのではとの感触を得たが具体的にそれを実務で使用するにはまだまだハードルが高い。設計者自身がさらに限界耐力設計に対する理解を深めさらに進めて実務で適用できるような表計算シートを自身の手で作ろうと言うことになった。これが先の勉強会の始まりである。 

 初回は私の地元、栃木県野木町の公民館に集まってもらった。栃木県や埼玉県からの参加者を得て8名からのスタートである。東京に程近いところから車で2時間余りをかけ来てくれたメンバーもいる。 
 テキストには関東能開大小山校の講座で使った「伝統構法を生かす木造耐震設計マニュアル」に加えて(株)ストラクチャー様のホームページに掲載されているコラム「限界耐力計算ってなんだろう?」も使わせていただきました。(株)ストラクチャー様にはこの場を借りてお礼を申し上げます。 

 順番に声を出してテキストを読み上げる学生時代のような寺子屋スタイルの勉強会である。50代も半ばを迎えるとテキストの文字も見えにくい。こんな形でほぼ1年間、テキストの読み合わせが完了し今年(2008年)からは実務で使えるように表計算ソフト(エクセルを使用)に載せる作業を各人で始めた。 それぞれが持ち寄った物件を基に建物概要から始まり荷重の算定、復元力特性の入力および集計、限界耐力設計、そして評価やグラフに依る表示など入力のフォーマットを考えながら載せる作業はかなり長い道のりに見えた。途中、参加できなかった月などあれば1か月のブランクが生じるし、この作業がスタートしてからは本当に出来るだろうかとの不安も頭をかすめる。私の場合、幸か不幸か進めていた設計の仕事が先方の都合で中断となり時間が空いてしまった為、勉強会とは別に普段の仕事の時間を使って一気に進める事ができた。あれほど遅々として進まなかった作業も一気に1日をフルに使えば延べ3日くらいで一応の形はできた。出てきた応答スペクトルのグラフも何となくそれらしい線を描いている。 

 表計算シートであるから何度も繰り返されるセル間のコピーや移動の過程でセルの参照位置が違ってしまったり、セル内の計算式そのものが違っていたりとバグ取りに加えて入力し易いように入力部分のインターフェイスを変えたりとさらに3日位かけて手直し、ようやく一応の完成(まだバグ付きかも)を見た。 

 ただこれを実務として実際の建築確認申請まで使うにはまだハードルがある。ひとつは入力する耐震要素の復元力特性(*4)が全て揃っている訳ではないという事。「伝統構法を生かす木造耐震設計マニュアル」は伝統構法を評価することに力点が置かれているので土壁や貫などについては実験により復元力特性を得ているが一般的な筋違いなどでは事例が少ない。壁量を確保するときによくやるタスキ掛けや90mm角の筋違いなどの特性は載せられていない。これは実験により算出するものなので個人の一設計者では手が出せないところである。希望としては現行の仕様規定にのっている耐力壁についての復元力特性程度は欲しい所だ。(それなら壁量計算で十分ではないかと言われるかもしれないが) 

 また限界耐力設計法を採用した場合、建築確認申請に当たって現行法では構造のピアチェックの対象となってしまい小規模の木造住宅の場合には申請上の負担も大き過ぎる。限界耐力設計を採用した場合、民間確認審査機関や役所などでは受け付けてくれないとの話も耳に入った。(真偽の程を確認してはいないが)設計者も審査する側もともに勉強する必要がありそうだ。 

 私は職人の技術に頼った伝統構法を目指している訳でも補強金物を全否定する訳でもなく、これからの木構造の有り方として木のしなやかさを受け入れる柔構造を評価した現代の木造構法を考えて見たい。その為のツールとしてこの限界耐力設計法には可能性を感じるものである。

* 4 建物は荷重を受けると変形するがこの荷重と変形量の関係を表したもの。一般に荷重が小さい間(弾性範囲)は比例関係にあり直線状の線形で表すことが出来るが大きくなると(塑性域)比例関係ではなくなり非線形となる。
 

                     LinkIcon LinkIcon